リバースエンジニアリングによる部品再生
副産物として生産された石膏は、石膏ボードなどの建材原料として有効利用されています。
今回は、この石膏を生産する工程で使用されている回転機械について、摩耗・損傷した部品をリバースエンジニアリングにより補修・再生した事例をご紹介します
石膏製造用回転機械の損傷状況
今回補修を行った回転機械は、1970年代に製造された大型機械です。内部の回転部を高速で回転させ、石膏を細かくすり潰すことで粉末状にする工程で使用されています。長年にわたり稼働してきた機械であるため、各部には経年使用による摩耗や腐食が確認されました。
ベアリングハウジングでは、ベアリング外輪の回り込みによって嵌合部に摩耗が発生しており、過去には摩耗した内径部へスリーブを挿入する補修が施されていました。また、ケーシング本体を固定する最外径部のボルトについては、石膏に含まれる水分の影響によって著しい腐食が進行しており、一部ではボルトの原形を留めていないほど損傷している箇所も多数確認されました


リバースエンジニアリングによるスリーブ再製作
既設のスリーブは長年の使用による摩耗・損傷が著しく、原形を留めていない状態であったため、現物から単純に寸法を復元することが困難でした。そこで、リバースエンジニアリングの知見を活用し、スリーブの設計から見直すことにしました。
新たに製作するスリーブについては、ベアリング外輪の回り込みによって作用するトルクを想定し、スリーブの締め代によって発生する面圧と摩擦保持力を計算します。これらをもとに、運転中にスリーブが滑りや回り込みを起こさない適切な締め代を設定するとともに、使用環境や必要強度を考慮して材質を選定しました。
スリーブ製作後は、フレーム側のベアリングハウジング内径を所定寸法に機械加工します。その後、冷やしばめによってスリーブを挿入し、ハウジングと一体化させることでベアリング嵌合部を復旧しました。
残されている部品をそのまま模倣するのではなく、荷重やトルク、面圧、材質といった機械工学的な条件から本来必要とされる機能を再構築することも、リバースエンジニアリングにおける重要な工程です


大型機械補修に対する考え方
今回製作したスリーブは全長(L寸法)が長いため、冷やしばめによる挿入作業には高い集中力が求められます。スリーブが十分に冷却・収縮していることを確認したうえで、フレーム側のハウジング内径へ慎重にはめ込みを行います。
スリーブ挿入後は、最終仕上げ加工へ移るまでの各工程で要所寸法を測定し、規定寸法内に収まっていることを確認します。あわせて、スリーブ端面の飛び出しや位置ずれ、傾きなどが発生していないことを再確認し、組込み状態に問題がないことを確認したうえで最終仕上げを行います。


機械の補修では、依頼された箇所だけを見るのではなく、機械全体をあらゆる方向から確認し、総合的に判断することが重要です。
今回の補修においても、スリーブの適切な締め代の設定、使用時に発生する応力を考慮した材質の選定など、単に元の形状へ戻すだけではなく、長期間安定して使用できる状態を目指して検討を行いました。
また、依頼を受けた箇所以外についても各部の状態を確認し、摩耗や腐食、損傷の兆候がないかを調査します。必要に応じて追加補修の必要性を判断し、お客様へ提案することも機械整備における重要な役割だと考えています。
特に大型機械では、工場への搬入・搬出だけでも多くの時間と費用を要します。補修後に別の箇所で不具合が発生し、再び機械を搬送することになれば、お客様にとって大きな負担となります。
だからこそ私たちは、目の前の不具合だけを直すのではなく、一度の入荷で機械全体を可能な限り確認し、必要な整備を完了させる「一回の補修で全整備」を目指しています。
それがお客様の設備停止リスクや将来的な整備費用を抑え、長年使用されてきた機械をより長く使い続けることにつながると考えています